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正文 第31节

  帰ってきた。知識を頭につめこんできましたといった表情。宗白はたのもしく思いながら迎えた。

  「どうだった。うるところはあったか」

  「大いにありました。わたしは目が開けたような思いです」

  「それはよかった。どんなふうにだ」

  「父上の医学はまちがっております。これは絶対に改革しなければなりません。それがわたしの使命です」

  宗太郎はまだ若くc頭がよかった。西洋医学に熱中しc外国人に激励されcのぼせあがって理想主義になってしまった。子供の時から甘やかされて育ちc不自由なく金が使えc金のありがたみを知らない。理想主義にでもなる以外にc人生の興味を発見できなかったのだろう。

  宗太郎は長崎で購入してきたc西洋医学の本c医療器具c薬品などを並べcあれこれ熱っぽくしゃべった。宗白にはなんのことやらわからなかった。しかしc変ったことが見物できるかもしれぬとc自分は隠居しc家督をゆずった。

  宗太郎の代となる。いわゆる科学的にすべてが切り換えられた。彼はおせじを言わずcなおるなおらないをはっきり言いc人事に口を出さずc賄わい賂ろもとらなかった。

  藩内はなんとなくcぎこちなくなった。あいそのいい会話がなくなりcだれもうまい汁にありつけなくなりc領民たちへの救いがなくなりc新医学がきくのかどうか見当がつかずc迷いの空気がみちてきた。宗太郎がはりきればはりきるほどcそれがひどくなる。

  しかしc父の宗白への遠慮もありcすぐには表面化しなかった。しかしcやがて宗白が死んだ。腹が痛くなったのに対しc宗太郎は手術の必要があると主張しcむりやりおこなった。外国人からc西洋ではわが子を実験台にした医師があると聞かされcそれにあやかろうと先駆者

  をきどったのだろう。その結果c症状は悪化しc死んでしまったのだ。

  西洋医学といってもc当時のものはたかがしれている。まともなのは解剖学だけでcこれは治療の役には立たない。ききめのあるのはcジェンナーが偶然に発見した種痘法ぐらい。石炭酸消毒がイギリスで発見されたのは明治維新のころcコッホによって細菌がはじめて発見され

  たのが明治十一年。現代的な薬品のたぐいはcなにもなかった。

  たちまち宗太郎の信用は落ちた。宗白が死んだためc風あたりもひどくなる。人気はなくなる一方。つまらない失敗をたねにc禄を下げられcもとの五十石にされてしまった。患者はだれもよりつかなくなる。宗太郎がいかに叫べどcひとりも相手にしない。残りの人生をcむな

  しくすごした。

  紙の城

  「おいc平十郎。大名が領内において土木工事をした。その結果c川の流れが変りcとなりの藩に水害がおこった。かつてそんな事件があったかね。あったらcどう処理したか書類を見たいとのc老中からの依頼なのだ。どうだ」

  上役から聞かれc平十郎は言う。

  「はあc三回ぐらいあったようです。何回目の書類がご入用で」

  「わからん。すまんがcみんな持ってきてくれ」

  「はあ」

  平十郎は上役の前をさがりc書物蔵のなかに入ってゆく。いたるところにつみあげられている書類c書類c書類。そのなかから命じられたものをさがし出しc持ってゆくのが仕事だった。

  平十郎は三十五歳。江戸城へ出勤するのが日課だった。書物方同心の職にある。書物方とはc書物の管理や資料の編集整理をおもに分担している部門だ。なんといっても天下の実権をにぎっている幕府cさまざまな珍しい古書をc大量に収集している。数万冊cいやcもっとある

  かもしれない。それにc書画のたぐいもある。

  火災にあってはいけないというのでc城内のもみじ山に何棟もの土蔵を作りcそれにしまってある。ここの管理者が書物奉行でc七人ほどいる。学問や文章にすぐれた頭のいい旗本たちだ。就任して数年間その職にいるがcやがて昇進してcもっといい地位へ移ってゆく。彼らに

  とって書物奉行という地位はc出世の途中の一段階にすぎない。

  その下に同心がc約二十人いる。同心とは下級職員のことでc禄高の低い武士がなる軽い役。つまりc手伝いだ。世襲が慣例ということになっている。

  十七歳の時からc平十郎は父にともなわれてここに出勤しc仕事の見習いをさせられた。それ以前の幼年のころc彼は子供らしい望みを持っていた。努力をすれば出世できるにちがいないという期待。そのため習字の勉強をやった。それが栄達の条件のひとつだろうと思ったのだ

  。けっこう上達した。器用すぎるとc父親が顔をしかめるほどの才能だった。

  父のそばで仕事をおぼえるのも早かった。どこになにがあるのかcそれを頭におさめるのは大変なことだったがc彼には若さと熱心さがありc苦しむことなく身につけた。

  二十五歳のとき父が死亡しc平十郎は家督を相続しc正式に書物方の同心となった。さてc実力によって昇進の夢をはたそうと考えたがcあらためてあたりを見まわすとcそれはむずかしいようだった。同僚の同心に言う。

  「わたしたちc書物奉行にはなれないのか」

  「つまらんことを考えるなよ。そんな前例はない。いい地位につけるのはc家柄や親類の立派な旗本たち。われわれ下っぱはc親代々この同心さ。しかしc気楽じゃないか。出世もしないかわりcへまをしなければc子供にこの職をうけつがせることができる。無難なものさ」

  「するとc同じ毎日をくりかえす一生か」

  「だから平穏に生活できるのさ」

  同僚は平然としていたがc平十郎は現実を知ってがっかりした。せっかくの字を書く才能も発揮できなかった。書物奉行たちはc自分で文章を考えc自分で報告書や意見書を作りたがる。同心の入り込む余地はない。

  幕政に関する書類作成はc奥右ゆうひつと表右とがおこなっている。表右は機密にかかわらない調査c記録c法令などの文書を作る。奥右はもっと重大で微妙なc請願受付けc事件調査c人事決定などをやる。この奥右の権威と実力はかなりのものでcこ

  とを早く進めてもらうようc自己に不利な決定にならぬようc各所から進物や賄賂がとどけられる。あの一員になりたいものだと平十郎も思うがcできるものではない。

  そんなことはともかくc作られる書類の量はc幕府ぜんたいで大変なものだった。数年間は各部門で保管されているがc置き場がなくなるにつれc古いのから順に書物奉行のほうへ回ってくる。

  「資料として保存しておいていただきたい。必要があったらc見せてもらいに来る」

  「よろしいcひきうけた」

  書物奉行は気軽に答える。ことわって相手の感情を害したくないのだ。当人はいずれ昇進するつもりでいるしcそれにc同心にそのまま命じればいいのだ。いつごろからこんな慣例になったのかわからないがcこれが現状だった。

  ほかの同心たちもそうだがc平十郎はまさに紙くず屋だった。ほうぼうの役所からc書類の束がとどく。どれもご用ずみのものばかりでc秘密のものなどあるわけがない。またc興味ある秘密はないものかと考えc読みふけったりしていたらc仕事は片づかない。

  同心たちはcなれたもの。ぱっぱっとよりわけc重ねc油紙に包みc目印として簡単な見出しの文字をつけc蔵に運んでつみあげる。親代々うけつがれてきた仕事だけあってcみな手ぎわがよかった。

  そしてc時どきc前例を知りたいとc書類さがしを依頼される。平十郎はとくに重宝がられた。同心たちcそれぞれ癖のある字で見出しを書いているわけだがc彼には文字への感覚があるのでcそれを読みわけることができるのだった。またcいかに達な文書でもcさっと内容

  を読みとれるのだ。同僚は同情してくれる。

  「すまんなあ。いつもcおまえばかり命じられているようだ」

  「まあcこれが仕事ですから」

  「適当にやってればいいんだよ。そんな文書はありませんと答えればいい。自分でやろうとしてもc上役にはできっこないんだ」

  「そうしたいんですがcなにがどこにあるのかcすぐ頭に浮んできてしまう」

  というわけでc平十郎は蔵のなかに出たり入ったりしてc毎日をすごしていた。古びた紙のにおいにもcいつしかなれてしまった。夏はいくらかすずしかった。冬もc風の当る戸外の仕事よりましだろう。

  しかしcこれといった役得はcまるでなかった。この文書を早くさがしてくれとcつけとどけを受けることなどc年に一回あるかないかだ。

  値うちのある書画を持ち出せないことはないがc発覚したら自分ばかりでなくc同僚たちまで処罰されるだろう。定期的に虫干しがありcその時に点検がなされるのだ。蔵のなかでcそっとながめることは可能だがcそれ以上のことは無理だ。

  そしてc平十郎はいつのまにか三十五歳になってしまった。

  十歳とししたの妻がいる。まだ子供はなかった。妻は内職として印判を彫る仕事をやりcそれがいくらか家計のたしになっていた。最初は趣味としてc小さな木彫りの人形を作っていたのだがcやがてその人形を売るようになった。だが器用さをみとめられc印判を作るほうが金

  になるとすすめられc印判屋からその仕事が回ってくるようになったのだ。

  こういう地味な部門の同心のくらしはcささやかなものだった。

  平十郎の気ばらしはcつとめの帰りにc時たま酒を飲むことぐらいだった。行きつけの店はc梅の屋という小料理屋。ほぼ同年配のそこの主人とはcなぜか気があいc冗談を話しあったりすることもある。

  その日cひとりで飲んでいるとc平十郎は店の給仕女からcこんなことをたのまれた。

  「郷里の父母にたよりを出したいんですけどc手紙を書いていただけないかしら。あたしc字が書けないんです。元気でいると知らせcお金を送りたいの」

  「感心だな。書いてあげるよ。紙とを持っておいで」

  平十郎は代をしてやった。それをのぞきこんでいた主人はc感嘆の声をもらした。

  「うまいもんですな。じつにcみごとです。この字だけ見ていると」

  「同心とは思えないと言いたいんだろう」

  「まあcそんなところで」

  「奉行や老中にだってcずいぶんへたな字のやつがいる。将軍だって」

  いつも扱っている古い書類の署名を思いだしながら言いc苦笑いしてつづけた。

  「しかしcいかに字が巧妙でもc出世の役に立たぬことがわかってきた。字なんかよりcそろばんを習っておくべきだった。勘定方だとcそろばんの腕でかなりの地位までゆけるらしい。だがcいまさらどうにもならぬ。十日に一回cここへ来て酒を飲むだけが生きがいだ」

  「いかがでしょう。ここの座敷に飾る字をcなにか書いていただけませんか。酔ったお客によごされたりc持ってかれたりでc困っているのです。なにかcもっともらしい感じのを書いて下さい。表具師にたのんでc安い掛物に仕上げる。どうされても惜しくないものがほしいので

  す」

  「ばかにされてるような気分だぞ」

  「これは失礼。しかしcお礼としてcお酒を一回だけ飲みほうだいにしますから」

  主人のこの提案をc平十郎は承知した。これは悪くない取引きかもしれない。

  だがc武士だけあってc平十郎はまじめだった。いいかげんなものを作る気にはなれない。つとめのひまを見てc書物蔵に入り休和尚の書を出してながめc特徴を研究した。そしてc帰宅して書きあげた。われながらcうまいできだった。

  日光にさらしたりc天井裏のほこりをこすりつけたりしてc古びた感じをつけc梅の屋に持ってゆく。

  「こんなのでどうだ」

  「いいでしょう。ようするにcなんでもいいんですから。いただきます。ではcお酒のほうをどうぞ」

  平十郎は支払いの心配なしにcいい気分になれた。

  十日後c平十郎はまた梅の屋に寄った。掛物になっているのを見たい気もしたのだ。するとc主人がまじめな表情と声で言った。

  「じつはcこのあいだの書ですがc座敷に飾っておいたらcお客のひとりがcぜひゆずってくれと持っていってしまいました。かなりのお金をおいて」

  「おまえもcわたしを見なおすべきだな」

  「どうやらc本物の一休さんの書と思ったようですよ。掘出し物だなんてcつぶやいていた。どうなんですcまさかcお城から持ち出してきたのじゃ」

  「とんでもない。本物を持ち出したのだったらcだれがこんなけちな小料理屋に」

  「でしょうな。ほっとしました。ひとつcきょうはおごりますからcそのことについていろいろとご相談を」

  主人はcさらに何枚かあれを書いてくれと言った。売れた代金は山分けということでと。平十郎はまんざらでもない。

  「才能をみとめられたということはc悪くない気分だ。しかしc同じのをすぐに飾ってはcそのお客だって変に思うだろう。べつな人の書を作るとしよう」

  平十郎の副業もcしだいに本格的になっていった。お城づとめにいくらはげんでもc出世の見込みはないのだ。この副業のほうに力がはいってしまう。紙やや墨に資本をつぎこむ。材料がよくなくてはならない。書物蔵のなかで故人の跡を研究しc帰宅してから製作する。

  有名な高僧c歌人c公卿c武将などの書ができあがっていった。印の必要なのもあるがcそれは妻が製作した。妻もなかなか器用cすぐにこつをのみこんだ。できあがるとcつぎつぎに梅の屋に持ちこむ。

  主人もcその販売先を開拓していった。うまいぐあいに金にかわる。梅の屋は店を大きく美しく改装した。平十郎も金まわりがよくなった。彼は金の一部をc上役へのつけとどけに使った。そんな必要はないのだがcこのところ跡の研究でc仕事の能率が落ちている。そのこと

  でおこられるのを防ぐためだ。

  またc同僚たちを梅の屋に招待した。ただしc本当のことは説明できない。

  「先日cここの主人が酔った浪人者にからまれて困っていたのをc助けてあげた。お礼にごちそうをしたいと言うがcわたしひとりで飲んでもつまらない。みなさんといっしょに楽しくやろうというわけです」

  仲間たちのごきげんもcとっておいたほうがいいというものだ。

  ある日c平十郎は作りあげた実朝の書を持ってc梅の屋に行った。金はもらえるしc飲みほうだい。すべて順調でc楽しくてならなかった。するとc主人がある商店主を紹介した。このかたが非常にお困りなのでc相談にのってあげて下さいという。商店主は言った。

  「じつはc五年ほど前にcある大名家に金を貸しました。近くその返済にくるとの連絡がありましたがcその証文をcわたくしども火事で焼いてしまっている。商人どうしならc信用にかかわることなのでc払ってくれるでしょう。しかしc大名となるとc証文がないと知ったらc

  これさいわいと金を払わないかも」

  「ありうることですな」

  「そうなったらc店はつぶれます。この梅の屋のご主人に打ちあけるとcあなたさまならお力を貸してくれるかもしれないとか。お助け下さい。お礼はいくらでも」

  と泣かんばかり。そばで梅の屋の主人も口ぞえをする。平十郎は質問した。

  「しかしc見本がないとね。なにか参考になるものはないのですか」

  「そのあとc二年前にも金を貸しました。文面は前のと同じcそれを書いた人も同じ。しかしc署名人の城代家老が交代している。五年前の城代家老はc独特な字で署名なさったかたでしたがcすでになくなられました。ですからcお目にかけられないのです」

  「なるほど。話はわかりました。なんとかやってみましょう。いまある証文をお貸し下さい。十日ばかりかかりますよ」

  平十郎は引き受けた。書物蔵に入りc見当をつけて書類をさがす。その藩にむけての幕府からの問いあわせに答えたcその城代家老の文書がでてきた。

  「あったcあった。なるほどcふしぎな字を書くやつだな。このまねはちょっとむずかしいぞ」

  それをふところに入れて持ち帰った。書物や書画のほうの蔵からの持ち出しはうるさいがc古書類の蔵のほうはさほどでもない。平十郎はそっくりの印を妻に彫らせcたぶんこうであったはずだという証文を作りあげた。それを商店主に渡す。

  「まあcこんなところで大丈夫と思います。しかしc持ち帰られると面倒だ。あなたは返済金の受取りを渡しcこれはその場で焼き捨てるようになさったほうがいい。それからcお礼の件を忘れないように願いますよ」

  何日かたつとc商店主はかなりの金を持って報告に来た。

  「おかげさまでcすべてうまくゆきました。金を持ってきたお使者はcなくなられた家老の署名を見てcなつかしがっておりました。作っていただいた証文は焼いてしまいました」

  現実に貸借関係はあったわけだしc使者もまさか証文がにせとは思わなかったのだろう。証文あらためはc形式的なことですんだらしい。商店主はさらに別な包みを出した。

  「これは先日cある骨こっ董とう商から入手したc珍しい

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