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正文 第32节

  品です。よろしかったらcさしあげます」

  あけてみると休さんの書。なんと平十郎の作ったものだった。

  「これはこれは。こんな貴重な品はいただけません。家宝になさってc大事にしまっておくべきです。お気がすまないのでしたらcそのぶんをお金で下さい」

  そのようにしてもらった。

  平十郎は時どきc同僚たちにおごった。家の大掃除をしたらc古い刀が出てきた。これがなんと名刀でc高く売れた。いまや泰平の世c刀より友人が大切な時代だと思う。理屈はなんとでもついたしcおごられるほうはc理屈なんかさほど気にしない。仲間うちでの評判は一段と

  よくなりc蔵のなかでなにをしようと自由だった。またc酔って夜道を歩いてるところを見られてもc名刀の金がまだ残ってるようだなと声をかけられるだけですんだ。

  新しく書物奉行が就任してくるとcそこへもつけとどけをする。どの奉行もc自分の昇進にばかり熱心でc平十郎の昇進など考えてくれなかったがcむしろそのほうがいいのだ。いまのように面白くc自分の才能の生かせる地位はcほかにないだろう。

  昼間はお城でc下級職員としてぱっとしない存在だがc夜はどんな豪遊もできた。

  気がむいてc武芸の免許皆伝書を作ってみたこともあった。将軍の子息にだれかが献上したものだろう。蔵のなかでみつけたそれを見本にcそっくりなものを作ったのだ。梅の屋の主人に見せる。

  「こんなのはどうだ。当人の名前さえ書き加えれば流の武芸者ができあがるぞ。売れないかね」

  「売れますとも。腕がありながらc浪人している人が多い。だがcこれさえあればc武術指南役としてc仕官できましょう。実力より証明書の時代ですからな。しかしc試合で負けてぼろを出しますかな」

  「そんなことはあるまい。実力より権威の時代ならだcそれがあるというだけでc相手のほうがびくついてくれるだろうよ」

  「それにしてもc平十郎さまは万能ですなあ。こつはなんですか」

  「字をまねるのはc芝居の役者のようなものさ。その役になりきらなければならない。だからc気分の切りかえが大変だな。坊さんになったりc歌人になったりc家老になったりc武芸者になったりだ。ところでcにせものだとの文句をつけられたことはあったかい」

  「ありませんな。この道にかけてはc平十郎さまは天才です」

  「もっともc見る人が見ればcにせものとわかるはずだ。字には巧妙さではまねられない風格というものがあるのだから。しかしcいまの世にはc字そのものを虚心にながめる人がいなくなったということなのだろうな」

  うまく進行しつづけているとcなんとなくものたりなくもなってくる。しかしc梅の屋の主人がc口ごもりながらこんなことを言いだした。

  「平十郎さまcとてつもない大仕事がありますよ。手を出さないほうがいいように思いますがね」

  「どうせならcでかいことをやってみたい気分になっている。いちおう聞かせてくれ」

  「ある大名家なんですがね。なにかやらかしたらしくcおとりつぶしになるらしい。そこの江戸家老cなんとかくいとめようとc必死になって各方面に運動しているがc楽観できない情勢です。このままだとcあのご家老c腹を切りかねません。うちの店をよくご利用になりc実朝

  の書も買っていただきcいいかたなんですが」

  「なるほど。うむ。以前からやってみたかったことだ。ひとつcこのさい」

  「どんな方法で助けるのですか」

  「家康公のお墨付きを作ってcその家老に売りつけるのだ」

  「なんですって。へたしたら首がいくつあってもたりませんよ。いままでのとはcわけがちがう。仲介はいたしますがcあとはお二人だけでやって下さい」

  「おまえに迷惑はかけない。ここのところがc武士と町人のちがいだろうな」

  平十郎は帰宅して妻に相談する。彼女もすっかりcこの仕事が好きになってしまっている。身分が低いとはいえcあたしも武士の妻cいつでも覚悟はできていると言う。

  やがてcその大名家の江戸家老と平十郎はc梅の屋の一室でひそかに会った。その時にはc家康公のお墨付きなるものはcすでに完成していた。それを見せる。

  〈そちのみごとな働きと忠実さcほめてとらす。子々孫々の代にいたるまでc徳川家につくせ〉

  家康の署名と花か押おうがありcあて名はその大名家の初代の名。平十郎がこれまでになく苦心して作ったものだ。家康公の気分になるのはc下っぱ役人の彼にとってcけっこうむずかしかったのだ。

  「どうです。これがあればcおとりつぶしは防げるでしょう。ほかに手はありませんよ」

  「しかしcあまりにも大それたことだ」

  江戸家老は青くなっている。それをはげまして言う。

  「大それたことだからc効果があるのですよ。盲点というやつです。殿の祖先の手柄を自慢したくないからcいままで内部だけの秘密にしておいたがcこれにおすがりする以外になくなったと言ってc提出するのです。表ざたになればc幕府も手かげんせざるをえない。家康公のお

  墨付きが無価値となればcほかの大名にも不安がおよぶ。幕府の根本がぐらつくからcそうはできない」

  「うまくゆくでしょうか」

  「武士らしくc思い切ってやってみたらどうです。ほっとけばどうせだめでcあなたがた浪人になるんですよ。ためらっている場合じゃない。それにcいいかげんな賭かけとはちがいます。わたしだってcそのための万全の手は打っているんです。それなりのお礼をいただき

  たいと思ってね」

  「おおせの通りにいたしましょう」

  その江戸家老はcやけぎみなのか奔走で疲れはてているためかcこころみてみる気になった。ほかにいい知恵はないのだ。

  二十日ほどしてc上役の書物奉行に平十郎は呼び出された。

  「老中からの依頼だ。家康公がある大名に与えたお墨付きの真偽についてc急いで調べよとのことだ。記録には残っていない。念のために書物蔵をさがしてみてくれと」

  「はい。しかしc時間がかかりましょう」

  「ぐずぐずしていられないのだ。全員でとりかかってくれ」

  書物方の同心の全員がc古い書類の山を調べはじめた。いつもは命令するだけの奉行たちもcそばへやってきてのぞきこんでいる。平十郎が蔵の内部を指さして言う。

  「時期から考えてcだいたいこの見当だ。手分けしてやろう」

  そのうちcひとりの同心が大声をあげた。

  「あったぞ」

  家康公の当時の側近の書いたcお墨付きと同文の控えがでてきた。さらにcその前後の文書をさがすとcその大名家の初代の書いたcお墨付きへの礼状と献上品の目録も出てきた。すべてc平十郎が作りあげcあらかじめ巧みにまぜておいたものだ。跡も署名もc完全ににせて

  ある。古びた紙を入手するのにcちょっと金がかかったが。

  奉行たちもざわめいた。平十郎はひそかに喜んだ。大さわぎにならないと困るのだ。これらの文書を老中がにぎりつぶすことも考えられるからだ。しかしcまあ大丈夫だろう。書物奉行はc文書発見の経過についてc誇らしげな報告書を作りはじめている。

  平十郎はcその江戸家老を呼び出して会いcこのことを報告する。

  「というわけです。格下げになるかもしれませんがcおとりつぶしだけはまぬかれましょう。ご安心を。公式に解決してからでけっこうですからcそれなりのお礼を。おっとcお礼を惜しんだりc秘密を知るわたしを消そうなどcつまらない気をおこしてはいけません。大変なこと

  になりますよ」

  「もちろんc謝礼はする。しかしc参考のためにcその大変なこととはなにかを聞かせてくれぬか」

  「わたしの才能はおわかりでしょう。またcあなたをはじめcそちらの藩の重臣たちの署名を見ることのできる立場にいることも。それをもとにc幕府に対する反乱の連判状を作った。わたしを殺せばcそれがおもてに出ます。そうなったらcおとりつぶしどころか全員が死罪です

  」

  「そんな連判状を信用する人がいるかね」

  「家康公のお墨付きについてcあなたも最初はそうお考えじゃありませんでしたかね」

  「そうだな。わかった。お礼は必ず」

  「それからc書類さがしにc書物方の同心たちcさんざん働かされました。少しずつでけっこうですからcみなに酒代をとどけてくれませんか。おいやならc連判状を」

  「承知した。同心への酒代を惜しんでcそんな危険をおかす気はないよ」

  その結果c同心たちは思いがけぬ収入に大喜びした。もちろんc平十郎のもとにはとてつもない大金が入った。

  書物奉行のところへ運びこまれる書類の量はc相当なもの。とぎれることもない。どこの役人もc自分の業績を後世へ記録として残したいものらしい。書物奉行が大英断でc大はばに焼き捨てればよさそうなものだがcその責任をしょいたくないのかcだれもやらない。

  平十郎が呼ばれて命じられた。

  「蔵がいっぱいになったようだな。増築が必要となった。その手続きはどうすればいいのか」

  「ご依頼の文書をc作事奉行にお出し下さい。前回の書式の控えがそのへんにあります」

  作事奉行とは建築関係を担当する役職。平十郎はその事務を押しつけられた。やっかいな仕事だがcある興味を持って見ているとcずいぶんと参考になった。

  作事奉行が支出要求書を作りc勘定吟味役にまわりcその監査の印が押されるとcつぎは勘定奉行でcこの印が押されて決定となる。しかしc簡単に進行するわけではない。何回も作事奉行や書物奉行に戻されc設計変更c金額訂正などc多くの担当者の署名や印が加わりc書類

  らしくなってゆく。

  最終的に勘定奉行の印があればいいのだ。それを御金蔵に持ってゆくとc建築材料の購入費が渡される。信用されるのは人間より書類でありcこの段階はあっさりしたものだ。

  平十郎はc心のなかでむずむずしたものを感じた。やってみたくてならなくなった。これができるかどうかでc自分の才能の評価がきまる。その思いは彼を実行にかりたてた。

  書物蔵のなかにc参考になる書類はいくらでもある。勘定奉行や勘定吟味役の印のついたものもある。そこの部分を切り取って家に持ち帰りc妻に作らせた。またc現在の奉行たちの跡も調べた。平十郎はこのことに熱中した。

  江戸城の庭のすみにc幕府のためにつくして職務上たおれた人たちの霊をまつるc小さな堂をたてる。その架空の計画書を作りあげた。図面がありc予算表がありcべたべたと小さな印が各所に押されc形式がととのっていった。寺社奉行にも関連することなのでcその署名と印

  も加えた。

  それを持って御金蔵へ行く。そこの係はcぱらぱらとめくりc勘定奉行の印を確認しcすぐ平十郎に支出してくれた。偽造への努力がcあっけないほどだった。係としてはcこんなことがなされるなどc想像もしていなかったわけだろう。

  彼はそれをcいったん書物蔵に運びこみcそこから毎日c少しずつ家に運んだ。一度に大金を持ち出すとc城門で怪しまれる。そう巨額というわけではなかったがcいずれにせよcみごとに公金を出させたのだ。たぶんうやむやになるはずだしcだれが犯人かcわかるわけがない

  。書物方の同心がやったなどとは。

  幕府の役人にも悪いのがいる。利権とひきかえに賄賂を取ったりc商人にたかってうまい汁を吸ったりしている。しかしc平十郎はそんなまわりくどいことをせずcさっと金を手にしたのだ。

  この成功によってc彼は気が大きくなった。ものものしく登城してくる大名を見てもcうらやましさや恐れを感じなくなった。

  〈そのほうcおこない不届きにつきc切腹を申しつける〉

  という文書だって本物そのままに書けるしcそのあとに老中c若年寄c大目付の署名を並べることもできる。つまりc上意の文書を作りあげることがc自分にはできるのだ。

  もっともcひとりではだめだ。芝居気のある浪人者をやといcそれにふさわしい服装をさせcきめられた人数をそろえる必要はあるが。

  その上意の文書を持ってc地方のお城へ乗りこめばcそこの領主はすぐ切腹するだろう。抗議をしたという話は聞いたことがないしc本物かどうか署名をたしかめさせろと要求したなんてのも前例がないはずだ。かりに調べられてもcにせと気づかないだけの自信もある。

  関八州取締役の辞令だって作れる。いばりちらしながら旅ができるのだ。またc大商人に対してc金をさし出せとの命令書をつきつけることもできる。その気になって怪文書を作りcうまく使えば老中を失脚させることだってできるだろう。人物評価c人事異動についての意見書

  をだれかの名で作りc廊下に落しておけばc城中での刃傷事件が発生するかもしれない。さらにはc身分の高い人のご落らく胤いんを作りあげることも。

  こんな空想を楽しんでいるうちにc満足感を通り越してc平十郎はなんだかむなしくなってきた。幕府の強大な権力といってもc紙きれだ。幕政の中心cこの広い江戸城もc早くいえば紙の城だ。武士だといばっていてもc紙きれにあやつられているにすぎない。こんなところで

  働いているのがcばからしくなってきた。

  金はけっこうたまったのだしc長崎へ行ってc珍しいものの見聞でもしたほうがましかもしれない。それを話すとc妻もいっしょに行きたいという。

  長崎にはc外国製の性能のいい短銃とやらがあるそうだ。護身用にいくつか欲しいものだな。その購入書類を作りあげた。これさえあればc堂々と買えるしc持っていてもとがめられない。

  またcどこの関所も通過できる書類を作りあげた。大名の領地へはいりこむ書類も作った。領内に不審な点ありcひそかに調査するというc大目付の署名入りの文書だ。そのほかcさまざまな辞令や身分証明書も。

  旅行の用意はできた。梅の屋の主人にだけc別れのあいさつをした。

  「しばらく旅に出るよ。上役にも同僚にもだまってc夜逃げのごとくcひそかに出発するつもりだ。元気でな」

  「どちらへcなにをなさりに」

  「まだcよく考えていない。失敗して帰ってきたらcまた一休さんの書などを作るからcうまく売ってくれな」

  「はい。ではc楽しんでいらっしゃい」

  「そのつもりだ」

  これまでためた金を大坂へ送りたいと思いc両替店へも寄った。するとc振出手形というものをくれた。これは為替ともいいc大坂の本店でお出しになればc金にかえてもらえますとのことだった。

  東海道を西へむかって歩きながらc平十郎は妻に言う。

  「大坂は米問屋をはじめc各種の問屋が集っていてc活気のあるところらしい。長崎を見たあとc大坂で商売でもやってみるか。江戸でかせいだこの金をもとに」

  彼は振出手形を出してながめる。

  「それにしてもcこれで金が送れるとはc便利なものだ。わたしはcそろばんはできないがcこれそっくりの字なら書けるぞ」

  妻も笑いながら言う。

  「あたくしもcそれそっくりの印なら作れますわ」

  この作品は昭和四十七年十一月新潮社より刊行されc昭和五十年九月c収録作品を加えて新潮社「星新一の作品集16」に収録c昭和五十八年十月作品集版をもとに新潮文庫版が刊行された。

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  殿さまの日

  発行  2001年9月7日

  著者  星 新一

  発行者 佐藤隆信

  発行所 株式会社新潮社

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  本书由论坛整理制作

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